COP15が終了して
先週末、第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が終了しました。今回の会議では、「コペンハーゲン合意:Copenhagen Accord」という、拘束力のない宣言が、不完全な形で示されるに止まり、残念ながら、地球温暖化打開に向けて、意味のある国際的な合意に至ることはできませんでした。この結果を踏まえて、我々が認識しなければならないことは、今回の会議が国際的合意に向かうどころか、会議が進行するにつれて、先進国、新興国、発展途上国それぞれの立場の違いが、致命的なほど明確になったということです。
日本人として残念なことは、グリーン・フレンドリーな民主党政権に変わり、CO2を1990年比で25%削減するという、他国との比較では大胆な目標を掲げるとともに、「鳩山イニシアチブ」と呼ばれる、これもまた大胆な発展途上国支援を打ち出したにもかかわらず、CO2の大量排出国である米国、中国に対して、枠組み参加へのプレッシャーを与えたようには見えず、また発展途上国からの歩み寄りを引き出すこともなかったように感じることです。今回の交渉で、日本の顔は見えませんでした。
マスコミで報道された内容は、概ね以上のようなものでした。しかしながら、気候変動問題は、我々が抱える他の課題と比較して、その影響度が、スケール的にも時間的にも甚大であるため、従来のメディア報道が触れない部分について、我々は充分に配慮していく必要があると思います。今回は、メディア・ジャーナリズム論を深く掘り下げることは避けますが、ひとつだけ認識しておかなければならないことは、マスメディアというものは、世の中の出来事を、しかるべきフレームワークに基づいて、尚且つしかるべき目的に基づいて、報道しているということです。すなわち、多くの場合、大衆が迎合しやすかったり、大衆が何らかのストレス発散ができたりする方向で、記事や番組が編成されているということです。そうしなければ、視聴者や読者の共感を得られず、存在意義を失ってしまうからです。
それでは、今回のCOP15の不調を踏まえ、我々人類が認識しておかなければならないこととは。「コペンハーゲン合意」でも再確認されましたが、世界の気温上昇を、産業革命以前の水準から、2度以内に抑えること。私は今、山本良一氏の「残された時間 2℃ Point of No Return」を読んでいますが、本書によると、今すぐに世界規模で大胆な対策を採らない限り、このポイントを超えてしまう可能性が高いとのことです。そしていったんこのポイントを超えてしまうと、地球環境は人間がコントロールできる範囲を超えてしまう可能性が高いとのことです。その時期は、遠い先ではなく、今から20年後当たりが想定されるそうです。問題は、その時、何がおきるのか? 島嶼国やアフリカから温暖化による飢餓難民が大量に発生し、民族の移動が起こったり、食糧不足、水不足による世界的な争奪戦がはじまったりする可能性があります。そういった視点で日本の現状、例えば食料自給率の低さ、安全保障に対する危機感の欠如、こういったものを鑑みると、日本はどうすべきか? どんな自衛手段があるのか? 気持ちの良い話ではありませんが、我々の思考の範囲内に留めておくべき重要課題だと思います。
もうひとつ重要な課題は、気候変動という危機に対応していくためには、一国が一票を持ち、基本的に全会一致を原則とする国連の枠組みによる合意形成には、限界があるのではないかということです。ポスト京都議定書の国際的な枠組みの議論は、来年のCOP16での締結を目指して、今後も進められると思いますし、建設的で速やかな議論が行なわれることを引き続き、期待しますが、COP15の現実を踏まえると、過度な期待は禁物にも感じます。それでは、どんな手段があるのか? この点については、トーマス・フリードマン氏が、ニューヨークタイムズに興味深い問題提起をしています。地球温暖化に迅速に対応するには、国際合意による法的な拘束ではなく、市場経済を活用した競争の方が有効であると主張しています。つまり温暖化対策を、経済成長戦略に如何に転換できるか? それを上手にやることが出来る国が、経済的に勝ち残れ、また温暖化緩和に貢献できるとの主張です。グリーン・ニューディールと言うものが、これに該当するのではないかと思います。これには、環境税の導入、クリーンエネルギーの買取制度の強化等、様々な促進政策が重要です。
OUR CHOICE 「私たちの選択」
本日、アルゴア氏の「不都合な真実」の続編となる「Our Choice」の日本語版、「私たちの選択」が発売となりました。米国での発刊が11月初めで、ちょうど私が米国出張の最中でした。各書店で、平積みになっていました。今回の日本語版は、オリジナル発売から、たった一ヶ月でのスピード発刊となりました。翻訳は、「不都合な真実」に続いて、環境ジャーナリストの枝廣淳子さんです。
本出版に先駆け、先日、枝廣さんをお招きして、電通グループ各社を対象に、本書の内容ならびにCOP15の動向について、勉強会を開催しました。かなり内容盛り沢山の厚い書籍ですが、スーパーグリッド、地熱発電、太陽光といった、気候変動に対応する最新の解決策と課題、そしてアルゴア氏の哲学が、包括的に盛り込まれています。日本語版は、オリジナル版の完全訳になっています。本書は、地球温暖化問題に関する当面のバイブルになると感じました。
広告業界に関連し、我々にとって耳の痛いコメントもありました。人間と言うものは、共通の価値観に基づいて長期的な目標設定をし、数十年、数世代、場合によっては数世紀にもわたって、その目標を熱心に追求し続けることが出来るそうです。こうした熱意を発揮できるのは、脳科学によると、前頭前皮質の背外側前頭前皮という部分のお陰だそうです。ただしこの能力は、過度のストレス、不安、気をそらすものがあると、疲弊して弱まってしまうそうです。昨今の情報革命以降、我々は以前とは比べ物にならないほどの情報、そしてストレスにさらされています。こうしたストレスに油を注いでいるのは、まさに我々広告業界だそうです。
確かに広告の役割は、消費者の欲望に火をつけることですから、否定のしようがありませんが、過度の欲望は今後持続不可能であることも事実であり、広告の役割も今後変わっていく必要があるのではないかと感じます。重いテーマではありますが、今後人類にとって持続可能な地球を維持するために、広告の新しい役割が問われています。
世界56の新聞紙が、気候変動に関する論説記事をトップ面掲載
先週7日から、コペンハーゲンで国連の気候変動に関する国際会議(COP15)が開催されています。この会議は、後世、人類の近代史上最も重要な意味をもった国際会議と位置付けられるだろうと思います。国際間交渉だけに止まらず、各方面でも様々な活動が活発になってきました。
日本ではあまり報道されませんでしたが、本会議開催にあたり、世界の56の新聞紙が共同で、気候変動問題の重要性について、共通の論説記事を12月7日に各紙のトップ面で掲載しました。英国のザ・ガーディアンやフランスのル・モンドといった各国を代表する新聞紙、そして中国やアフリカの新聞紙も多数参加しましたが、どうしたわけか、日本の新聞紙はどこも参加しませんでした。アメリカも地方紙中心で全国紙の参加はありませんでしたが、日本からの参加がゼロというのは、何ともさびしいというか、残念というか。COP15に関連する報道も、それほど活発でないようで、現在の日本の世界視点での問題意識の欠如を感じざるを得ません。
広告業界での興味深い動きとしては、ピュブリシスが、広告の「グリーンウォッシュ」をグループを挙げて禁止していくとのプレス発表を行いました。
来週半ばからは、各国の首脳が集まり、最終的な詰めの議論に入ります。世界視点でどこまでの合意に至るか。我々と我々の次の世代の将来が、懸かっています。
