WPP マーチン・ソレルCEOのAd:Tech講演について
先日Ad:Techニューヨークでのキーノートスピーチで、WPPのマーチン・ソレルCEOが、2010年の広告業界の展望について、"2010 - What's Coming Down the Line?"というタイトルで講演を行いました。ちょうどニューヨーク出張中だったので、直接聞くことができました。ソレル氏はしばしば同様のタイトルで講演を行っているそうで、「いつもの話だったね」との評判も多々聞きました。しかしながら私は初めて直接彼の話を聞いたので、世界市場を視野に入れてダイナミックに話す彼の説明に、強い印象を受けました。ここに彼のスピーチの概要をご紹介しようと思います。
1.今後は中国をはじめとした新興市場が重要となる。例えば、中国の携帯電話のユーザーは5億人だけれども、今後さらに7億人増える市場余地がある。
2.インターネットをはじめとしたニューメディアの大きな伸びも予測できる。現在消費者のメディア接触時間の中で、オンラインメディアの占める割合は25-28%だけれども、オンライン広告市場シェアは13-17%に過ぎない。今年は、物心付いた時からインターネットに親しんできた純粋ウェブ世代(Pure Web People)が初めて大学に入学した年になった。
3.昨年の金融危機以降、クライアントは徹底的にコストにこだわるようになり、広告予算を大段に削減するようになってしまった。従って、広告ビジネスで利益を出すことが極めて難しくなってきた。これ程までにクライアントがコスト削減に取り組んでいる姿は、私の広告人生においていまだかつて経験したことがないレベルだ。世界は全く変わってしまった。現在利益を出しているのは、グーグルやアマゾンなど、世界的にもほんのわずかのプレイヤーに限られてきてしまっている。
こうした環境変化の中で、広告会社は3つの対応が必要だ。
1.欧米市場からアジア市場への戦略シフト
2.市場急減によるオーバーキャパシティへの対応、すなわち大胆なコスト削減の実行
3.変化を拒み、従来メディアをクライアントに売り続けようとする高齢化するマネジメント層の刷新
こうした中でWPPは、次の3分野を強化している。
1.Emerging Markets(中国、インド、ブラジル、インドネシア等)
2.Digital Media(グーグルは、より親しみのあるFrenemyとなってきた)
*Frenemyとは、Friend(友人)とEnemy(敵)の2語の造語。ソレル氏は、かつてから「googleは、広告会社にとって、脅威的な敵であるとともに、広告媒体としては仲間でもあり得る」と言っていました。
3.Consumer Insights(メディア出稿の効果を明確化するデータ分析サービス)
そして、これからの時代のCEOの最重要課題としては、下記が挙げられる。
1.ニューメディアを効果的に活用して、従業員と効果的なコミュニケーションが取れるか?
2.CSR(企業の社会的責任)を軽視するCEOにチャンスはない。CSRは慈善事業ではなく、長期的にブランドを構築するための重要な事業活動である。
こうした課題の解決のためには、イノベーションとブランディングの視点が重要だ。
WPPは、テクノロジーが今後中核となると考えている。そして従来の狭い領域のクリエーティブを信じない。今後は、より広い領域でのクリエーティビティが必要だと考えている。
このまま行くと、雑誌、新聞といったメディアの収益力は、インターネットの普及により、ますます落ち込んでいくだろう。そうした中で、ニューズ・コーポレーションのルパード・マードック氏の考え方、つまり消費者が金を出しても見たいと思うコンテンツを有料で提供するという戦略、には賛同する。本当にニーズのあるコンテンツを提供できるメディア企業のみが生き残ることになるだろう。
世界経済は、若干悪化傾向に歯止めがかかってきているように感じる。今後は各々の市場でLUV型に回復に向かうだろう。欧州はまだまだ回復には遠く、L字型となる。米国は充分に潜在力があり、徐々に回復に向かうU字型の回復。そして中国、ブラジルといった市場は、V字型の回復基調となろう。中国の持続的な成長に疑問符を抱く人もいるようだが、私は全くそう思わない。上海の現在の発展をみると、上海は将来アジアのマンハッタンになるだろう。
私の走り書きのメモを元にしていますので、数字等若干間違いがあるかと思いますが、彼の指摘の概要は以上のようなものでした。当然のことながら、日本の位置づけは、アジアではなく、欧州か米国的なものでした。そして残念な点は、日本市場については、個別にはほぼ全く取り上げられませんでした。これは彼の講演からだけではなく、日本経済がグローバルな視界から消えつつあるのを、最近感じることが多々あります。忌々しきことですし、奮起が必要です。
9月のアドテック東京で、私は「次世代広告会社への脱皮」というタイトルでパネルディスカッションを持ちました。その際の議論をまとめたものが、iMedia Connectionに掲載されましたので、こちらもご参照頂ければ幸いです。
http://www.imediaconnection.com/content/24925.asp

